扉を開けて、彼女は光に溶けていく

友人が亡くなって、七十七日が過ぎたそうです。

私は敢えて彼女がこの世を去った日を記録していません。

 

彼女は可愛いものが好きだった。

そして自分をとても愛していた。

だからと言って、他人を粗末にすることはなかった。

 

私から見たら、常に中立を保つ<大人>だった。

私が喧嘩を始めることはあっても、彼女からは一切無かった。

やはり、大人なのだろう。

 

次元を超えた彼女に動揺はなかったよう思う。

「思ったよりも、楽しい」

と、彼女は光の中で笑っている、気がする。

 

彼女は父親と二人暮らし、犬を一匹飼っていた。

洋風の素敵なお家だった。

 

でも、その家は、今は無人だ。

彼女の死をきっかけに年老いた父親は施設へ入り、飼っていた犬は他家に貰われて行ったから。

 

彼女は、アトリエのあった、あの二階の部屋で暮らしているだろう。

気持ちよく光の入る部屋で、今も絵を描いているはず。

誰もいない、と言うことに疑問を持たないはず

 

だって、父親は部屋にいると思っている。

ワンコも庭にいると思っている。

いつもと変わらない自分の時間を楽しむかのように。

 

彼女がその部屋で眠り、目覚める度に長い間の抗がん剤の投与で痛みきった体が回復して行く。

体がだんだん軽くなり、自由に動けるようになる。

 

彼女は喜ぶ、体に力が入る、以前のように動けるようになる

何となく鏡を見ると若返っている気さえする。

 

彼女は思う

 

今なら外へ行けるのでないか?

今まで行けなかった外へ。

最後に庭へ出たのは何時だったか?

彼女は新しい服を着て、靴を履いてドアノブに手を掛ける。

そして、ドキッとする。

なぜなら、外から彼女に呼び掛けるワンコの声が聞こえるから

 

そっと手をかけ・・一気に扉を開く

光が、音が、香りが、降り注いでくる。

彼女は美しい光の中に飛び出す。

わんこが彼女を守るように尻尾を振ってついて行く。

 

彼女は歓喜し、光に溶け込んでいく。

・・・回帰していったのだ。

 

私の忘れてしまった懐かしい故郷へ。

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ようこそ、いらっしゃいませ。あなたが来てくれてうれしいです 振り返ってみると幼い頃の記憶は幼稚園の入園式から、それ以前はあやふやです。小学生の頃の夢は宇宙飛行士、中学生の頃は漫画家。けど誰にも言えなくて、もっと現実的な美術系の学校に行くことにしました。 でも、大学受験コケました。合格圏にいたはずの4年生大学を面接で失敗、その年は補欠の繰り上がりも無く、あえなく短大へ。人生の厳しさを知った春でした。ショックだった。でも今思うと、それは必然だったと思う。だって、その短大に行かないと出会えないと言う人が未来で待っていたから。いわゆる前世の恋人。 前世をトレースするかのように恋をして、同じように破局しました。私としては成就させたかったのだけれど・・ ここでも、ショックでフリーズした私を見逃さなかったのが実の母。 失恋の痛手で自己愛も自尊心も遥かにゼロに近くなっていた私は母の言いなりに見合いをして結婚してしました。 そこからが魂の修行の日々、過酷だったあ。 結婚して7年間は本当の自分を箱に入れて、母の言いなり、お人形のような生活に甘んじました。 7年目の早春、はっと我に返って唖然としました。 嫌いなものを黙って受け入れた人生は、大嫌いなもので満ち溢れていました。ウンザリしました。乳飲み子を含む三人の子どもがいて、介護一歩手前の祖父母がいて、しがみついて話さない母親、好みじゃない夫。 ここから私がもともといた場所までは遥かに遠い、地の果てまで飛ばされたかのようです。 ここから自分を取り戻していく泥沼を歩くような人生が始まりました。 手始めに人生で初めて母に「NO!」と言い、ついでに夫にも「これ以上子どもは生まないから。」と言いました。 弱い、と思っていた存在が逆らうと、ハチの巣を突っついたような気分になるようで、二人からの風当たりは強くなりました。 それでも後戻りする気はないし、前進あるのみ、心理学を学び、精神世界へ足を踏み入れました。そのうち直観力も自然に身につき、良きメンターに巡り合いました。 今思えば敵と思っていた存在が一番のメンターだったかもしれない。彼らがいなくて、ただの幸せな人生だったら、ここまで来なかった。 今、使命を実行できるのも彼らのおかげです。この場を借りて「ありがとう」