この話はとある輪廻の話です。
もちろんファンタジー、検証も出来ない、確証も無いお話です。
先頃一人の男性がこの世界を後にしました。
その葬儀は盛大で、王族の一人か?と思うほどだったそうです。
溢れんばかりの手向けの花、供物。
葬儀に参列する人の列は長く続きました。
年の頃にして60半ば。
突然の死でした。
皆が別れを惜しみ、好い人だったと涙ながらに口にします。
が・・その葬儀を冷静に見つめるのは妻と子どもたち。
世間と家族では、彼の人柄への評価は真逆だったのです。
世界中が彼を好い人と呼んでも、彼の妻だけは冷笑するでしょう。
好人物と評されるその男は、家庭内では実に冷酷な一面を見せていました。
ビジネスの世界でかける情けは、妻には向けられなかったのです。
時は変わって、中世ヨーロッパ
まさに魔女狩りが盛んな頃
一人の領主がいました。
肉の上に肉を重ねたようにデップリとした容貌は
彼が領主の権利を十二分に行使して、奪い、贅沢を独り占めしていた事を示していました。
彼は魔女裁判のそれも慣例に習い、残酷さを当然として行いました。
彼が暮らす城の地下には拷問部屋があり、一度収監されると脱走はまず不可能と言われていました。
出入り口が天井にあったのです。
天井の扉を開けて階段を下ろさないことには出口はありません。
彼はそこで思う存分の拷問を行いました。
当時、それは正義だったのです。
ある時一人の農夫が無実にも関わらず、拘束されました。
連日過酷な拷問が繰り返され、瀕死の状態となりました。
今にも意識を失うと言う時に天井から梯子が下ろされ、領主はやってきました。
刹那、二人は視線を合わせます。
領主はあざ笑うかのように農夫を見下ろし、農夫の瞳は無念に染まっていました。
死に行く農夫の貧しい家では、彼の妻が目に涙を一杯ためた呆然と座っています。
その後も領主は我が世の春を謳歌し、この世を去りました。
無限の闇の中に溶けていく意識の中で
『奪った分は返さなくてはならない。』
そう言う声が響きます。
それは、彼の魂に深く刻まれました。
そして転生の時
彼は前世の反射を受け、極貧の農家に生まれました。
その家庭は父親が病弱で働けず、女手1つ、母親の働きだけが頼りの切なさでした。
厳冬には懐に焼いた石を忍ばせ、友人宅の暖かな灯を羨ましく見つめました。
親戚筋の人間は厚かましく、かつ恩着せがましく情けをかけますが、ありがとうと言うしかありませんでした。
前世とは真逆の暮らし
彼はここで、権力や富を真逆の方向から理解します。
『食べる事が最高の事。(父親のように)働けなくなる前に、稼がなくてはならない。』
成長した彼は、計算高く仕事をこなし、富を形成していきます。
そして、彼は領主が土地の豊かさを領民に分け与えるように、
仕事の関係者、友人、隣人に少しづつ食べ物を分けて行きます。
それは季節の果物であったり、遠方からの土産物であったりしました。
彼の中では食べ物=権力だったのです。
貰った人は皆、彼を<良い人>と呼びました。
芸術よりも誇りよりも、食べ物が一番という土地はどこにでもあります。
彼はたくさんの人に食べ物を分け与え、領主としての務めの仕上げをしました。
そして、名君の扱いでこの世を後にしたのです。
これもカルマの振り子が正しく振れたという証でしょか。。
ただ、彼の妻とのカルマは来世に持ち越しです。
それは彼の妻の冷たい視線を見れば、一目瞭然。
彼の妻は夫を嫌いましたが、彼も苦手でした。
妻の視線はもう記憶にも無い、何か不快なものを思い出せるのです。
なぜなら、妻の視線は地下の拷問部屋で死に絶えた、あの男の視線を匂わせていたのです。
恐らく二人は果てしない時間の流れのどこかで、再び出会うのでしょう。
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